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がん最前線 乳房(上) 保険適用で人工乳房増加 リスク理解し選択を

 女性がかかるがんで最も多いのは、乳がんである。国立がん研究センターの予測でも、今年新たに乳がんと診断される人の数は8万6700人で、部位別で女性の1位となった。
 一方、死亡数の予測は1万3400人で女性の5位。「閉経後に限れば、乳がんにかかっても亡くなる方は10分の1程度。比較的命を落としにくいがんの一つ」と、かなざわピンクリボンプロジェクト実行委員長を務める石川県立中央病院乳腺内分泌外科の吉野裕司診療部長は指摘する。

●温存手術は減少


 死亡率が低いとはいえ、女性らしさの象徴とも言える乳房にメスを入れるのは肉体的だけでなく精神的なダメージを伴う。「なるべく元の形のままで」というのが切実な願いだろう。
そこで20年ほど前から普及したのが乳房温存手術。乳房を全摘することなく、がんを部分的に切除し、乳房の変形が軽くなるよう形を整える手術法だ。
 温存手術が適しているのは、がんのしこりの直径が3センチ以下とされるが「一時は、乳房温存合戦のようになり、大きいしこりでも温存が選ばれた」と吉野部長。大きなしこりの場合、温存しても乳房の形は崩れ、しかも全摘より再発の恐れは高く、患者の満足のいく手術とは言えなかった。
 こうした反省から温存手術はピーク時の7割から、ここ数年は6割程度に減少。さらに昨年7月からは、人工乳房を使った再建手術が公的医療保険の対象となり、片側100万円前後かかっていた費用が、入院も含め10~15万円程度に抑えられるようになった。
 保険適用に伴い、全摘、再建を決断する人は増加。県立中央病院でも、昨年行われた160件の乳がん手術のうち全摘は45%で、前年の34%から1割増えた。全摘した人のうち、昨年は約40%が再建手術も受けており、前の年の約10%から大幅に増えている。
 再建には患者の腹部や背中の筋肉、脂肪を移植する「自家再建」もあるが、同病院で昨年行われた再建手術は、全例が人工乳房を使ったものだった。

●満足度上がる


 「どうしても乳房は残したい」とほかの施設で一度、温存手術を受けたものの再発し、保険適用以降、県立中央病院で全摘、再建手術を受けた30~40代の患者も数人いるという。「再建技術も進歩し、美容的な満足度も上がっている。全摘に踏み切れなかった人も選択肢の一つとして考えるようになった」と吉野部長は話す。
 ただ、人工乳房は感染のリスクを伴うほか、放射線治療との相性が悪いなどマイナスの面もある。リスクも理解した上で、医師と相談しながら納得のいく治療法を選びたい。